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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)133号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士雨宮清明の上告理由は「一、振出人を錯誤に陥しいれて手形を不法に詐取された場合にはその被害者たる振出人(上告人)に手形上の責任なきものと信ずるを以て此点原審判決摘示の理由は不備なるものと思料します」と云うにある。

しかし原判決の確定した事実は上告人は被上告人主張通り記載せられた約束手形一通を作成しこれを法島由太郎あてに振出し、法島は昭和二〇年一月二九日これを株式会社三菱銀行に裏書譲渡し、同銀行は満期日に支払のため適法にこれを呈示したが支払を拒絶されたので、翌日法島に戻裏書をし被上告人は同年三月二〇日法島から裏書譲渡を受けたというのであるが、なお原審は右手形は昭和二〇年一月一二日山本健吉が上告人に対し「見せ手形」として一時借用したいと欺いてこれをかたり取つたものであるから、振出行為は存しないとの上告人の主張に対して昭和二〇年一月中山本健吉は上告人に対し「見せ手形」として使いたいから暫く手形を貸して貰いたい、一週間程すれば返すと言つて来たので上告人は約束の期日に返して貰えるものと信じて山本に右手形を貸したところ、山本はその後言を左右にして上告人に右手形を返却しない事実を確定しているのである。右原審の確定した事実によれば上告人は本件手形に署名し、これを任意に山本健吉に交付したことが明かであるから本件手形の振出行為は成立したものと云うべきであつて、たといその振出について上告人が主張するように手形を詐取された事実があつても、そのような事由は悪意の手形取得者に対する人的抗弁事由となるに止まり善意の手形取得者に対しては振出人は手形上の義務を免かれることはできないと解すべきである。そして本件手形の受取人法島由太郎が悪意であつたことは原審で上告人の全然主張立証しないところであるから法島は善意の取得者と認むべきであり、法島から本件手形の裏書譲渡を受けた被上告人が善意の取得者であることは原審の確定しているところであるから、上告人は被上告人に対し本件手形上の義務を負担しているものと云うべきである。従つて原判決には毫も所論の如き違法なく論旨は理由がない。

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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